きっと、ずっと、会議は踊る

エンジニアリングとアイドルとロックンロール

アイドルとTOと神と預言者、そしてアンバサダーマーケティングについて

注) このエントリは、ライブ告知です。アイドルやwebマーケティングに興味がない人は、一番下のライブ告知(10/18 sun, 18:00 -)だけ読んでくれれば良いです。

はじめに、簡単な言い訳 

僕は「色々やってるインターネットの会社」で、プログラミングしたり、データ分析をしたりして生計を立てている(色々具合だけでいったら、相当上位だと思う)。その色々の中に、アイドル関連のお仕事(正確には、動画サイトであってアイドルには限らない)もあって、どこでどうなったのか、全然関係ないはずの僕のところに、簡単な相談が来るようになった。で、その際にノリでした「アイドルとTO(後述)と神と預言者の関係」「TOとアンバサダーマーケティングについて」という話が会社の人に結構評判が良かったこともあって、せっかくなのでここにまとめておこうと思う。先に言い訳しておくと、僕はエンジニアだしデータサイエンティストだから、本当にアイドルやマーケティングに詳しい人はこの文章の間違いは寛大に見逃すか、優しく僕 (@shoe116)  まで連絡をくれたら嬉しい。

アイドルとそのファンについて

アイドルとそのファン(以下敬意を持ってヲタと表記する。昔は親衛隊といったらしい)は「互いに承認欲求を満たしあう、非常に都合の良い擬似的な恋愛関係にある」ということは、過去の当ブログのエントリ「ニセモノノコイガシタイ (アイドル現場とデール・カーネギーの密接な関係) 」で述べたとおりだ。残酷なまでに単純化すると

  • 無条件にチヤホヤして欲しいアイドル
  • 「いつもありがとう」といってもらいたいヲタ

の関係だ。

僕は行ったことないけど、マンガやドラマで見る限りキャバクラも似たようなものだと思う。このことは、別に僕だけが気づいているわけではない。FoggのCHEERZDeNASHOWROOM、DMMのyellはどれも「承認欲求」に着目したソーシャルゲームだ。「1つも知らねーよw」という人も多いと思うので、DEEPGIRLましろさんの味わい深いつぶやきを引用しておく。

アイドルは、ヲタからのcheerで常時ランキングされる。当然、承認欲求から彼女たちは上を上を目指す。ヲタはヲタで、そのアイドルにどれだけcheerしたかでランキングされる。アイドルからの承認を求め、ヲタもcheerに勤しむ。

勘のいい人は気づくと思う。そう、たくさん"cheer"するために、ヲタは相当額の課金が必要だ。 サービス運営側が過度なプロモーションをかけなくても、プレイヤーであるはずのアイドル側が自主的に「もっと課金してほしい」とヲタに呼びかける。本当に良くできたソーシャルゲームだ。なお、SHOWROOMについてもとてもわかりやすい事案を見つけたのだが、あまりに生々しくて直接引用することが躊躇われる。興味があったらこちらをご覧いただきたい。

アイドルとTOに見る神と預言者の関係

ヲタクの中に、"TO"と呼ばれる人が存在することを知っている人は、どれくらいいるのだろうか。「トップヲタ」、略してTOだ(ちなみに日本が誇る集合知Yahoo!知恵袋にはトップオタに関するQ&Aが存在する)。

TOを理解するには、アイドル-ヲタ界隈の構造を知る必要があるが、言葉だけで説明するのは困難なので、下記のようなイメージ図を用意した(「運営」については省略)。  あくまでも説明のためのイメージ図だ。あくまでも。

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fig.1 アイドルとTO、そして界隈の関係

 SNSが隆盛を迎えている現在でも、アイドルが全てのヲタと直接的なコミュニケーションをとることは困難である(そんなことをしていたら、リプ返している間に日が暮れてしまう)。一般に、アイドルとヲタのコミュニケーション基盤たるTwitterでも、ファン層の拡大とともに「リプは1日1回」「リプは気まぐれ」「リプ出来なくてごめんね」という状態遷移をたどる*1。しかし、アイドルとヲタの活動には

  • コールやミックスの作成と布教
  • 生誕祭やオフ会等のヲタの有志が主導するイベント
  • ライブの情報拡散や集客

等、「アイドル(神)とヲタ(信者)が協力して行うべき神事」が多くある。 特に生誕祭の成功には、界隈の威信がかかるため、有志の「生誕委員」による入念な準備とアイドル側との綿密なコミュニケーションが必要になる*2。そこで、登場するのが「預言者たるTOの存在」である。預言者は神の言葉を聴き、皆に広める。必要があれば神に問い、その答えを皆に伝える。このTOがハブとなり、アイドルを中心としたコミュニティが成長していくのである*3

アイドル現場で見られる「誰が考えたんだよw」という手の込んだ、それでいて一糸乱れぬコールやミックス、「誰がどうやって運営してんの?」という規模のファン有志企画の影には、TOとその側近界隈の、有力かつ有名な少数精鋭ヲタの大きな貢献があるのだ。

ここで、聖書の一説を引用したい。

あなたがた(教会)は使徒と預言者という土台の上に建てられており、キリスト・イエスご自身がその礎石です。

(2:20)

 これはそのまま、以下のように置き換えることが出来るだろう。

あなたがた(ファン)はTOとその直属の界隈という土台の上に立てられており、アイドルご自身がその礎石です。

しかし、TOの負担は小さくない。スケジュール調整や企画運営、こまごまとした連絡、界隈間のトラブルの仲裁・・・。当然、彼らはそれらを無償で、自らの意思で行う。なぜ、アイドル現場ではそんなTOが湧き出てくるのだろうか。

TOの資質と権威、そしてアンバサダーマーケティングについて

 自分で、問題を提起しておいてなんだが、もう皆さん分かっていると思う。そう、承認欲求だ。TOには、下記の2つの資質が求められる。

  • アイドルによる、「この人が1番私を応援してくれている」という承認
  • ヲタ界隈による、「この人が1番彼女を応援している」という承認

この2つの承認を得るために、預言者たるTOは身を粉にしてライブに通い、そして神の言葉を聴き、それを皆に伝える。より信仰が広まるように、そしてより完成度の高い神事のために尽力するのだ。

"TO"のような、承認欲求を利用したマーケティング手法に、「アンバサダーマーケティング*4」がある。「FacebookTwitterに代表されるSNSの台頭によって、Webマーケティングは新しい時代に突入した。アンバサダーマーケティングである。」的な文章を見たことがある方もいるかもしれない(ちなみに、Webマーケティングは、プロ野球のドラフトにおける「10年に1人の逸材」やハリウッド映画で「全米が泣く」のと同じくらいの頻度で「新時代に突入」していると個人的に思っている)。

アンバサダーマーケティングについて、京井良彦 (@kyoi_y) さんの、アンバサダーにお金をあげないで! というアドタイのエントリを少し長文で引用させていただく。

(前略)
アンバサダーマーケティングとは、自社ブランドのファンを「大使」として任命することで、口コミなどでその評判を広めてもらえることを期待するものです。

(中略)

アンバサダープログラムで大事なことは、金銭的なインセンティブを付与しないことです。 例えば、料理レシピのクックパッドは、金銭的なインセンティブがなかったからこそ成長したことで有名です。 クックパッドのユーザーは、基本的に他のユーザーから評価されることが、レシピ投稿のモチベーションになっています。 それによって、質の高いレシピが集まり続けているわけです。 もしここにポイントプログラムのような金銭的インセンティブをつけてしまうと、ポイント目当てに何でもかんでも投稿するユーザーが増えて、投稿レシピの質が下がってしまいます。 ユーザーが欲しいのは、お金ではなく評価なのです。

 そして、最後のようにまとめられてる。

お金より評価や誇り。
こういったモチベーションは、人間だけが持つものです。
アンバサダーという「人を起点としたマーケティング」への取り組みは、こういったことを理解することから始まるのだと思います。

長くなってしまったので、僕もこのブログを以下のように結論付けたい。

  • アイドルを語る際、承認欲求は重要な要素であり、それに注目したwebサービス複数存在する
  • アイドル(神)とヲタ(信者)をつなぐTO(預言者)が存在する
  • TOの仕組みは、アンバサダーマーケティングのそれとほぼ等価である

最後に、僕の承認欲求の話(ライブ告知)

ライブします!僕と学生時代に一緒にギターを弾いたり歌ったり、研究してくれたりした愛知在住のフォークシンガー/フィドラー カツ氏が東京まで応援に来てくれます。

お暇な方、是非遊びに来てください!

詳細

  • 日時:10/18 (sun) 18:00 op, 18:30 st
  • 場所:下北沢ラグーナ (DaisyBarの1階)です
  • 費用:事前にとり置きの連絡いただければ、1000円 + ドリンク500円
  • 出演:しゅう、たかみや"dragon"りゅうすけ、杉田慧、宮元さゆり、吉川亮毅

僕の出演はトップバッター、18:30 - です。よろしくお願いします。

 

注釈等:

*1:

たとえば、でんぱ組.incのセンター古川未鈴さんのtwitterには現在も「レスできなくてごめんね!」の文字が残る。

twitter.com

*2:たとえば、でんぱ組.inc最上もがさんの生誕企画は、でんぱ組.incとそのファンコミュニティが大きくなった現在も有志のヲタにより企画・運営されており、以下のようなtwitterアカウントが存在する。なお、本人たちのエゴサーチにかからないように、鍵付きで運用されている。

twitter.com

 

*3:ちなみに、新旧預言者の関係や考え方の相違によって、時として周囲を巻き込んだ非常に面倒なイザコザに発展するのもTOと預言者の共通点だが、今回は触れないことにする

*4:

話を簡単にするために、この文章ではアドボケイター(Advocate)とアンバサダー(Ambassador)を区別せず、「アンバサダー」と呼ぶことにする。